みなとみらいを音楽であふれる街に

クラシック音楽をもっと身近に・気軽に!
リニューアルした「横浜みなとみらいホール」

YOKOHAMA MINATO MIRAI HALL

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1998年の開館以来"海の見えるホール“として多くの方に親しまれてきた「横浜みなとみらいホール」、2022年10月に1年10カ月にもおよぶ大規模改修工事を終え、より輝きを増した魅力的なホールへとリニューアルしました。

そこで、新しくなったホールの見所や、開館25周年を迎えた、今までの…そしてこれからの「横浜みなとみらいホール」について、伊東総支配人にお話しを伺いました。

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インタビュー

1. エントランスロビー

みなとみらい線『みなとみらい駅』の中央改札を出て左側、クイーンズスクエア横浜方面に進みエスカレーターで1階へ。クイーンモール内を海の方へと進んで行くと、大きな窓から明るい光が差し込み、モール内でも大きな存在感を放っている「横浜みなとみらいホール」のクイーンズスクエア横浜側の入口が見えてきます。

金色の扉をくぐると、壁画制作の第一人者の田村能里子氏による壁画「季の風奏」が出迎えてくれます。

この作品は横浜みなとみらいホール落成を記念して、1998年に横浜市に寄贈されました。壁画に描かれている20人の美神が、訪れた人をやさしく音楽の世界へといざなっているようです。

壁画に沿って歩いて行くと、エントランスロビーへ出ます。

暖色系の温かみのある照明に照らされた大理石のフロアは、気品と共にやわらかな雰囲気を醸し出し、お客様を迎えてくれています。

コートなどの衣類は、クロークへ預けホールへと向かいましょう。(クラシックは音に繊細。コート等の衣類に音が吸われて響きが変わることもあるそうです)

今回のリニューアルでは、車いすやオストメイトに対応したトイレが増設されました。それ以外にも、心のバリアフリートイレや、授乳室を備えたベビールームも新設され、より快適なトイレ環境へ変わりました。
案内板のピクトグラムを見れば、どんな機能が設置されているのかが一目瞭然です。

さらに、地下1階には生後6カ月から12歳までのお子様を預けられる託児室(要事前予約)も完備されているので、演奏会の間は、お子様を預けて安心して音楽を楽しめます。

クイーンズスクエア横浜内に入る「横浜みなとみらいホール」
作・田村能里子氏「季の風奏」©平舘平
リニューアル後は、階段のあった場所がスロープへと変更になり、安全でスムーズな往来が可能に
着替えボード、調乳用温水シンクなども設置されている

2. 大ホールホワイエ

大ホールホワイエは、吹き抜けの高い天井とガラス張りの設えで、明るく広々とした空間です。窓の外には海を臨む、みなとみらいの街並みが広がります。

公演のある日はドリンクの提供も。
開演前や休憩時に、みなとみらいの景色を楽しみながら、喉を潤してみてはいかがでしょうか?

2階客席ホワイエの吹き抜けの天井には、パイプオルガンをイメージしたオブジェが設置されています。夜にはライトアップされ、神秘的な美しさを中からも外からも堪能できます。

色が次々に変化する、季節やイベントに応じた様々な演出が約30パターンも用意されているそうです。どのパターンを見る事ができるか??楽しみですね。

鮮やかな赤いカーペットへ一新
オブジェには長さ3m〜9.5mの342本のアルミ製パイプを使用

3. 大ホール

横浜みなとみらいホールのメインである大ホールは、2,020席。コンサートホールには最適と言われるシューボックス型をベースに、舞台が見やすいアリーナ型の客席配置を取り入れた「囲み型 シューボックス形式」を採用しています。

舞台の最前部から3階席の最後部までは、わずか33.5m。大きなホールでありながら、演奏者を間近に感じることの出来る距離感です。

クラシック専門ホールならではの音響の良さを体感しに、是非、足を運んでみてください。気軽に楽しめるクラシックコンサートなどがたくさん開催されていますよ!

今回のリニューアルの主な目的は耐震改修だったため、大ホール内は大きく変わっていませんが、各階層の通路側の席には、階段でのつまづき防止に役立つ「つかまり棒」が設置されました。階段を上り下りする際も、安心して移動ができます。
(…と言っても、移動の際お足元にはお気をつけて!)

1階・2階・3階席からなる大ホール
全ての列の通路側の席には背もたれにつかまり棒が

4. パイプオルガン” Lucy”

「横浜みなとみらいホール」のシンボルともいえるのが、パイプオルガン “Lucy(ルーシー)”です。全部で4,632本のパイプが使われています。

表に見えるパイプだけでなく、内部には材質も形も大きさも様々なパイプが4層も並んでいるのだそう。

長く使われる中で育んだ音の深みが、Lucyのひとつの味でもありましたが、リニューアル休業中にオーバーホールを施し、響きの明るさが増したといいます。

取材日は、パイプの中に風を通すためのオルガンメンテナンスが行われていました。

オルガンメンテナンスは、演奏会スケジュールの合間を縫うように、毎月行われているそうです。担当するのは、横浜みなとみらいホールホールオルガニストのほか、「ホールオルガニストインターンシッププログラム」の卒業生たち。

このメンテナンスのおかげで、いつでも荘厳で神聖な音色を楽しめるのですね。

「楽器の王様」と呼ばれるパイプオルガン。荘厳で神聖な音色を響かせます
絶賛メンテナンス中!「ホールオルガニストインターンシップ」の卒業生の方にとってはパイプオルガンに触れられる貴重な機会

5. 小ホール

小ホールは横浜みなとみらいホールの6階に位置する、席数440席のシューボックス型のホールです。

可動式残響調整板を備え、弦楽器など繊細な音色が美しく響きます。ピアノ・声楽などのリサイタル、室内楽にピッタリ。

リニューアル以前は、エントランスロビーからエレベーターで5階まで上がり、そこからはエスカレーターで6階へと向かっていましたが、この度のリニューアルによりエントランスロビーから小ホールのある6階まで、エレベーターで直行できるようになりました。

座席シートのカラーも、以前の青から赤へと大変身。

観る側もですが、演奏者側の方も、今までの客席の景色とガラッと変わった印象を受けているのでしょうね。(赤のシートだと華やかなイメージですね)

また、大ホール同様、各階層の通路側の席にはつかまり棒も付いて、階段の上り下りも安心です。

使い勝手がよく、色々な演奏会に利用される人気の小ホール
座席シートが赤になり、ホール全体での統一感も

6. レセプションルーム

横浜の海が臨めるレセプションルーム。空気の澄んだ快晴の時には、遠くにスカイツリーも臨めるとか。波をイメージした照明もオシャレです。

音響設備も整っているので、小さなコンサートやピアノの発表会なども開催されています。

海の見える景色をバックにした演奏会は、きっと忘れられない思い出となることでしょう。

6階には、空の見える庭園が!こちらは小ホールやレセプションルーム等の利用時に入ることができます。

「みなとみらいの大ホールには行ったことがあるけれど、屋上に庭園があるなんて知らなかった!」

次回は小ホールのコンサートを聴きに行き、休憩時間に屋上庭園でのんびり…というのも良さそうですね。

また、5階・6階には、ピアノが備えられている(※ピアノのない練習室もあります)大小の音楽練習室があります。こちらも全室リニューアルされていて、5階には2部屋、6階には4部屋の計6部屋と豊富です。

解放感のある全面窓ガラスからは、海が見える
ホールの屋上に空の見える芝生の空間が!©平舘平
定員5~12名までの部屋が12部屋©平舘平

7. リハーサル室(地下1階)

地下1階のリハーサル室は、大ホールで開催されるオーケストラのリハーサルにも対応する広さがあります。また、室内の一角に化粧台も設置されているので、楽屋としても使えます。

パーテーションで部屋を2つに区切って使用することも可能です。

70~80人規模のリハーサルにも対応できる

インタビュー

伊東 亜紀子(いとう あきこ)様

プロフィール:横浜みなとみらいホール 総支配人

横浜みなとみらいホールの総支配人である伊東亜紀子さんに、横浜みなとみらいホールの特徴や今後の展望などをお聞きしました。

世界で活躍する奏者も市内の小学生も利用する珍しいクラシックホール

――横浜市内にはたくさんの音楽施設がありますが、横浜みなとみらいホールにはどの様な特徴がありますか?

伊東:みなさんのイメージは、「大きなパイプオルガンがあるホール」だと思いますが、当ホールはクラシック専用ホールと市の公共ホールという2つの側面があります。利用される方の幅の広さと層の厚さも大きな特徴です。

例えば、リニューアルオープン後に、アメリカのビッグ5に数えられるボストン交響楽団の演奏会の翌日に、市内の小学生の発表会が開催されたこともありました。

この利用者の幅の広さ、層の深さを支えるのは、優れた音響設備、きめ細かい接客を心がけているレセプショニスト、それを裏で支える我々スタッフの存在があるからだと思います。

――今回のリニューアルでは、どういった所が新しくなったのですか?

伊東:今回は、110カ月をかけて、ホール全体での天井脱落対策や長寿命化等を目的とした大規模改修工事を行ないました。

ホールに関しては、音響特性に影響を与えない形で天井を新しく作り変えた上で耐震化を図りました。他にも、経年劣化による変色・汚れなどの修繕、心のバリアフリー対応トイレエリアやベビー室の新設、小ホールへの専用エレベーター改装など、様々な場所が変わっています。

トイレには、人が入ると光がつく人感センサーが導入されましたし、壁も、落ち着いたダークカラーに木の素材を生かし、さらに海を感じる波のモチーフを加えたデザインとなりました。以前との違いを探すのも楽しいかもしれませんね。

パイプオルガン&クラシックを気軽に楽しめるイベントも強化

――パイプオルガン“Lucy”の音色を生で気軽に楽しめる、何か良いコンサートはありますか?

伊東:それなら、開館時から続く「オルガン・1ドルコンサート」(100円もしくは1ドルで、お昼休みにパイプオルガンの演奏が気軽に聴ける企画)がオススメです。リニューアル後は公演時間が40分から30分になり、よりお昼休みに来やすくなりました。

また、お客様の声を受けて、「オルガン・1アワーコンサート」という姉妹コンサートも生まれました。こちらは全席指定1,000円で、演奏とオルガニストのトークを交えた1時間のプログラムです。

少しずつお客様にも定着してきていて、パイプオルガンを気軽に楽しみたい層にも、少し深く知りたい層にも好評をいただいております。

――1998年開館という長い歴史の中には、パイプオルガン以外のコンサート・イベントもたくさんあります。中でも印象的だったものは何ですか?

伊東:どれか1つに絞るのは難しいのですが、個人的に好きなのは、「こどもの日コンサート」です。毎年5月5日に開催しているのですが、オーケストラ、パイプオルガン、児童合唱、公募で集まった中学生プロデューサー達による企画など、盛りだくさんのコンサートになっています。

休館中の2021年にスタートした中学生プロデューサーによる企画は、中学生たちが大人と一緒になって企画を考えたり、楽しみながら運営に携わっている姿を見て、こちらまで元気とやる気をもらいました。

また、長い歴史があって印象に残っているものは、1982年に開始された「横浜市招待国際ピアノ演奏会」という若き俊英ピアニストを紹介する演奏会の、第40回記念特別演奏会ですね。40年以上続くピアノ・フェスティバルは世界でも類を見ないそうですが、第29回からこの演奏会の企画委員長を務める海老彰子さんと長年の友情で結ばれたマルタ・アルゲリッチさんとのデュオの名演は夢の様な時間でした。お客様のスタンディング・オベーションも忘れられません。

――普段クラシックを聴かない人でも楽しめる様な企画もありますか?

伊東:もちろんです。横浜はジャズ発祥の地とも言われていますし、実際にとても盛んです。一流アーティストによるジャズ公演や「みなとみらいSuper Big Band」(横浜みなとみらいホールが主催する中高生のビッグバンド)の公演も開催していますし、「みなとみらい遊音地」といって、夏休みにファミリーでオペラ・室内楽・ジャズなどの様々なジャンルが楽しめるイベントもあります。

また、パシフィコ横浜での「お城EXPO」との連動イベントなどもあります。意外と、クラシック好きじゃなくても気軽に足を運べるように、色々なイベントも多数開催しているんですよ。

楽しいプログラムが目白押しの「こどもの日コンサート」©藤本史昭
「横浜市招待国際ピアノ演奏会第40回記念特別公演 マルタ・アルゲリッチ&海老彰子 デュオ・リサイタル」©藤本史昭

音楽の街「横浜」をワンランクアップさせたい!

――コロナ禍でコンサートが開催できず、新たに配信にチャレンジされていました。これはどういった経緯で生まれたのですか?

伊東:新井(鷗子)館長の発案です。コロナ禍で活動の場が減少してるアーティストたちへの支援、これまでにないような芸術の楽しみ方を提供するという目的で、「横浜WEBステージ」を立ち上げました。

最新の映像技術を活用して、アーティストのパフォーマンスを様々な角度から楽しめるようになっています。例えば、ホール内にドローンを飛ばしたり、8Kカメラで360度撮影したり、小型カメラで鳥や虫の目線での映像など、今までになかった映像がたくさんあります。

――今後も、新しいイベントや音楽の楽しみ方を発表されるのですか?

伊東:もちろんです。2023年度は、開館25周年に当たったので、例年のイベントに加えて、プロデューサー in レジデンス2代目の反田恭平さんがプロデュースする音楽祭(3月19日~24日)を行いました。今後も、反田さんの独創性や発想力を生かした横浜ならではのプログラムを打ち出していきたいですね。

他にも、次世代育成プログラムやソーシャル・インクルージョンな活動にも力を入れていきたいと考えています。

――今後、「Music Port YOKOHAMA」に期待することはありますか?

伊東:横浜市には、たくさんの個性的な音楽施設がありますが、実はあまり、お互いの施設の個性や強みなどを知ることができていません。

漠然としてるのですが、今後はお互いの理解を深めて、それぞれの得意分野を掛け合わせることによって、新しい科学反応が生まれれば良いなと考えています。

当ホールは公共ホールという性格も持ち合わせているので、実はアウトリーチにも前向きです。ぜひ、横浜が音楽の街として広く認知されるように、他の音楽施設の皆さんと協力していきたいですね。

「横浜みなとみらいホール」ウェブサイト
https://yokohama-minatomiraihall.jp/

国内外で活躍する音楽家をプロデューサーに迎える「プロデューサー in レジデンス」2代目プロデューサーの反田恭平さん©蓮見 徹